「わたしちょうちょが嫌いなんです」
そう言った彼女の顔は微笑んでいた。
普段の帰り道、特に接点もなくただ方向が同じってだけだった彼女。
学校が同じだってこと以外は何も知らず、話す気もなかった。
そんな帰り道の道中。
ボロボロになった木の看板にツタが伸びていた。
日々見るうちに今日はどれくらい伸びているのだろうと、楽しみになっていた。
そんなある日。
ついに看板を覆いつくし、極めて飛び出した芽から花が咲いた。
見守り続け甲斐があったと微笑んでいたら隣から、
「咲きましたね」
振り向いた先に彼女がいた。
いつも遠くでしか見たことの無い彼女は近くで見ると別人だった。
いや本人であることに違いはない。
近くで見て声を知った彼女と、これまでじゃべったこともない遠目でしか見たことの無い彼女が同一人物だと脳が認識していない。
「…………ですね」
「帰り道に見てたんですよね」
「はい、毎日見てました」
「わたしも毎日後ろから見てるなーって見てました」
初めての会話は反射的な返事しかできない。
ただ、彼女の一挙手一投足、全てを目が追っていた。
何時間にも感じる彼女の観察は急に眼を見開いた彼女の動きで終わった。
視線の先につられてみれば咲いた花に蝶がとまっていた。
しばらくの間、見つめていた彼女はゆっくりと顔をこちらへ向けた。
「…………わたし」
その時の表情は今でも忘れることができない。
「ちょうちょ嫌いなんですよ」
しばらく見とれていたが、割とはやく我に返れた。
なんせ、
「奇遇ですね、自分も嫌いなんです」
その後、初めて二人で並んで歩いた。
歩いて揺れるその手から蝶の鱗粉をこぼしながら。
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蛇足:カラスアゲハって名前も見た目もめっちゃかっこよくないですか
蛇足の蛇足:ポルノグラフィティの「アゲハ蝶」っていい曲ありますよね、自分も好きなんですがこの話は「アゲハ蝶」がモデルではありません。
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