日々自堕落な生活を送っていた者がいた。
働きもせず、親類に金をせびり、罵倒と悪意しか吐かぬ口で飯を喰らう。
もちろん慕われるわけもなく、陰では散々な言われようだった。
「あ~、早くあの世へ行ってくれねぇかな」
そう願われるほどに、嫌われていた。
そんなある日。
誰も訪ねることの無い部屋を叩いたものがいた。
「うっせーな! 誰だよ!」
罵倒と同時に開けられたドアの先には、
「わたくし、悪魔と申します。この度は取引の申し込みに来ました」
悪魔がいた。
「悪魔だぁ~?」
「えぇそうです、死後の魂を貰う代わりに願いを何でも三つだけ叶えることができます、もちろん願いごとを増やすいくつかはできませんが」
それでも大抵のことは叶えますよ?
そう悪魔は微笑んだ。
最初は訝しんでいたものの、騙されてやるかと笑いながら願った一つ目は無限の財と健康な身体。
悪魔との契約が本物であると確信したが、今の状態でならなんでもできる。
「ご要望の際はお呼びを」
そう言って悪魔は姿を消したが、もう呼ぶことはないだろう。
確信した日々を過ごしていた。
だがそんなある日、
「はじめまして、こんにちは」
偶然知り合った相手に一目ぼれをした。
見た目? 頭脳? 品の良さ?
理由は分からない、ただ魂が好きだと感じた。としか言えない感情だった。
すぐさまアピールした。
金はある、健康になって見た目も良くなった。これで口説くことができないわけがない。
そう思っていたのにできなかった。
なぜだろうか。
理由は聞いても分からなかった。
思いつく方法全てを試して全てが通じなかったとき、大声で叫んだ。
「相手を魅了する、もちろんできますとも」
それなりの時間が経ったはずなのに一ミリたりとも変わってない姿で現れた悪魔はいともたやすく、人の心を操った。
「私の全てをあなたへ」
輝く瞳で全身から伝わる愛を身に受けて幸せに、
暮らすことはできなかった。
あくまで自分に惹かれていたのは悪魔のおかげ。
心が揺れ動いても魂は違う。
好意が向いたことに気がとられて気付くのにかなりの時間が経ってしまった。
「最後の願いが心の解放ですか、もちろんできますとも」
ちゃんと願いは叶ったのだ。
「あなたのことをお慕いしています」
長い期間変えられた心は解放された後も影響は残ったのだ。
なにもできずにただ最後まで泣き続けた後、せめて死後は一緒にいたいと遺言を残して眠りについた。
二人が眠る墓の前に影のない人影が一つ。
「まさか二つもいただけるとは、一人につき願いは三つ。死後であってもお聞きしましょう」
握った掌に語り掛けると闇夜に溶けて消えていった。
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蛇足:悪魔と虫歯菌のデザインってそっくりですよね。
蛇足の蛇足:聖書だとノアの洪水なんかのせいで神&天使>悪魔なんですよね人への被害。
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